忍者ブログ
創作童話のブログです。 「童話の森」からガタゴトお引越ししてきました。
[1]  [2]  [3]  [4
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ずーっと昔、僕がまだ小さかった頃、川上にある町でボールを川に流してしまった。

赤いボールだった。

川下の町に引っ越してから、僕はボールを探している。

あの赤いボールに、ただ逢いたくて。





僕の住む町には、縦に流れる川がある。

川は僕の家を過ぎると、どんどん広くなって、そして海へと出て行く。

 

川上の町からはいろんな物が流れてくる。

川下に住む僕は、学校から帰ると、棒を継ぎ足して作った特製の網を持って川に行き、流れてくるボールを拾う。

どこかで子供が投げたか蹴ったか、ボールはよく流れてくる。



今日流れてきたのは、黒いボール。

網ですくって、拭いてやった。

中から白いボールが、うれしそうに顔を出した。

「もう汚れるのは嫌だ。」というので、また川に流してやった。

そして海まで流れていった。




次の日に流れてきたのは、緑のボール。

網ですくって拭いてやろうとすると、嫌がるように手から滑り落ち、川に飛び込んだ。

そして海へと流れていった。



あるとき流れてきたのは、赤いボールだった。

僕は少しどきどきしながら網ですくい上げた。

思っていたより大きい気がしたけど、あんまりちゃんと覚えていないんだ。

拭いてやりながら、このボールが固いのに気がついた。

「僕をおぼえてるかい。」と聞いてみた。

その時声がした。

「パパ、あのボール。」と女の子。

「あんまり走ると転ぶぞ。」と、息を切らせた男の人。

二人は、僕の持っている赤いボールを見て言った。

「さっき流してしまったボールかもしれないんだけど・・・。」

ボールが少し柔らかくなった気がした。

「今、拾ったんだ。」と返してあげた。

「ありがとう。」女の子と父親はそう言って、もと来た道を帰っていった。

僕の赤いボールじゃなかった。



またあるとき流れてきたのは、青いボール。

川の青に溶け込んでいて見失いそうになったけど、網ですくい上げた。

いつものように拭いてやっても、青いボールは濡れたままだった。

泣いてるんだ。

今日の空は青空。

僕は空めがけて思いっきりそのボールを投げた。

青いボールはきらりと太陽の光を反射させ、消えた。

気分が少しは、変わったかなあ。



その後流れてきたのは、黄色のボール。

すくってやると、すっかり空気が抜けていた。

家に持って帰って、空気を入れてやった。

大喜びで飛び跳ねて、黄色いボールはそのまま川に飛び込んだ。

海にたどり着けるだろう。



そしてまた、赤いボールが流れてきた。

網ですくい上げたボールに、消えかけの僕の名前が書いてあった。

「やっと逢えた。」

赤いボールは思っていたよりずっと小さくて、僕は驚いた。

このボールで遊んでいた僕は、今よりずっとずっと小さくて、このボールが本当よりももっともっと大きく見えていたんだ。

拭いてやりながら聞いた。

「僕をおぼえているかい。」

「大きくなったね。」と、赤いボールはますます赤くなりながら答えた。

そしてころんと一回転して、川に入っていった。

海へ向かったんだ。



いつか海は、たくさんのボールでいっぱいになるかもしれない。

いろんな想いを運んで海へ流したボールたちは、それからどうするのだろう。

キラキラ月明かりに照らされて、海の星になるのかもしれない。

僕は、たくさんのたくさんのボールが海へ向かうのを見てきた。

みんな、未知の世界へ向かっていたんだ。

僕もそろそろ、出発のときかもしれない。

未知の、未来へ。



もう赤いボールを探すことはない。

僕はそっと網を置き、家へ帰った。

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最新CM
[02/25 唄]
[02/25 MAI]
カウンター
プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
詩を書いたり、童話を創作したりが好きな主婦です。
ブログ内検索
忍者ブログ [PR]